東京地方裁判所 平成2年(行ウ)81号 判決 1992年5月21日
東京都世田谷区上祖師谷一丁目四〇番一二号
アインサムゼハス二〇一
原告
牧諒吉
右訴訟代理人弁護士
角田雅彦
東京都世田谷区若林四丁目二二番一四号
被告
世田谷税務署長 小林三郎
右指定代理人
若狭勝
同
神谷宏行
同
青野正昭
同
大島誠二
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が原告の昭和六一年分所得税について昭和六三年一一月二八日付けでした更正(ただし、平成二年九月四日付け再更正により減額された後の部分)のうち、分離長期譲渡所得金額四四〇万七八一七円、納付すべき税額九七万八三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、同日付け変更決定により減額された後の部分)を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告の昭和六一年分所得税(以下「本件所得税」という。)について、原告のした確定申告、被告のした更正、再更正、過少申告加算税賦課決定及び過少申告加算税変更決定並びに右更正及び右過少申告加算税賦課決定に対して原告のした不服申立て及びこれに対する応答の経緯は、別表一記載のとおりである。
2 原告は、右更正(ただし、右再更正により減額された後の部分、以下「本件更正」という。)のうち、分離長期譲渡所得金額四四〇万七八一七円、納付すべき税額九七万八三〇〇円を超える部分及び右過少申告加算税賦課決定(ただし、右過少申告加算税変更決定により減額された後の部分、以下「本件決定」という。)に不服があるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1の事実は認める。
三 抗弁
1 本件更正の適法性
(一) 本件所得税に係る総所得金額及び分離長期譲渡所得金額並びに各算出の根拠は次のとおりである。
(1) 総所得金額 四一六万一〇〇〇円
原告が確定申告書に記載した額(給与所得の金額)である。
(2) 分離長期譲渡所得金額 三億九二八一万二三九八円
ア 譲渡価格 五億八〇四九万三〇〇〇円
原告は、千住邦夫に対し、昭和六一年三月二五日別紙物件目録記載の各不動産(以下「本件資産」という。)を譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。
右金額は、本件譲渡の譲渡価額である。
イ 買換資産の取得価額 一億〇〇九一万七六〇〇円
右金額は、租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの、以下「旧々措置法」という。)三六条の二第一項に定める買換資産の所得価額である。
ウ 譲渡収入金額 四億七九五七万五四〇〇円
右金額は、右アの金額から右イの金額を控除した金額であり、同項柱書により本件資産のうちこれに相当するものとして租税特別措置法施行令(昭和六三年政令第七三号による改正前のもの、以下「旧々令」という。)二四条の二第三項で定める部分の譲渡があったものとして、旧々措置法三一条が適用されることとなる。
エ 取得費等の金額 八六七六万三〇〇二円
a 取得費 二九〇二万四六五〇円
右金額は、租税特別措置法(昭和六三年法律第四号による改正前のもの)三一条の四第一項本文に基づき、右アの金額に一〇〇分の五の割合を乗じた金額である。
b 譲渡費用 七五九九万五九九〇円
右金額は、本件譲渡に要した費用の合計額である。
c 取得費等の金額 八六七六万三〇〇二円
右金額は、旧々措置法三六条の二第一項、旧々令二四条の二第三項により、右a及びbの各金額の合計額に、右アの金額に対する右ウの金額の割合を乗じた金額である。
オ 分離長期譲渡所得金額 三億九二八一万二三九八円
右金額は、右ウの金額から右エの金額を控除した金額である。
(二) 本件更正に係る総所得金額及び分離長期所得金額は、右(一)の総所得金額及び分離長期所得金額とそれぞれ同額であるから、本件更正は適法である。
2 本件決定の適法性
別表二記載のとおり本件更正によって原告が新たに納付すべき税額は一億二六一二万(国税通則法(以下「現行通則法」という。)一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)となるから、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの、以下「旧通則法」という。)六五条一項により右新たに納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じた金額(六三〇万六〇〇〇円)に、現行通則法六五条二項により右新たに納付すべき税額中期限内申告税額(一二八万二九〇〇円)を超える部分に相当する金額(現行通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた金額)に一〇〇分の五の割合を乗じた金額(六二四万二〇〇〇円)を加算した金額一二五四万八〇〇〇円を賦課決定した本件決定は適法である。
四 抗弁に対する認否
1(一)(1) 抗弁1(本件更正の適法性)(一)(1)(総所得金額)は認める。
(2) 同(2)(分離長期譲渡所得金額)のうち、分離長期譲渡所得金額三億九二八一万二三九八円であることは争い、譲渡収入金額を除くその余は認める。
(二) 同(二)は争う。
2 同2(本件決定の適法性)のうち、別表二の順号<1>、<3>、<4>、<6>、<9>及び<11>は認め、その余は争う。
五 再抗弁
1(一) 株式会社牧電機商会(以下「牧電機」という。)は、興産信用金庫(以下「興産信金」という。)から昭和六一年一月八日に二億三五〇〇万円を借り受けるなど、総額三億九二五〇万円を借り受けていた。
(二) 原告は、牧電機の興産信金に対する右(一)の債務について連帯保証をした(以下、これに係る連帯保証債務を「本件保証債務」という。)。
(三) 原告は、本件保証債務を履行するため、抗弁1(一)(2)アのとおり本件譲渡をし、そのころその譲渡代金のうち三億九二五〇万円を支払って右債務を履行した。これによって原告は、牧電機に対し右と同額の求償権(以下「本件求償権」という。)を取得した。
2 牧電機は、昭和五八年ころから債務超過の状態にあり、昭和六〇年ころには融通手形を振り出していた相手方や取引先が倒産したため、その経営はますます悪化していた。しかるところ、右1(三)のとおり興産信金に対する債務が整理された後も、牧電機の売上げは伸びず、同社が興産信金その他の金融機関から新たな融資又は支払い猶予を得られる目途もなくなった。同社の昭和六一年五月一日から昭和六二年四月三〇日までの事業年度における営業損失及び繰越損失は、それぞれ一億〇八五〇万八七三〇円及び七億八〇四七万一六二九円に上った。
このように、牧電機の再建は不可能となり、本件求償権の満足を得ることもまた不可能となったため、原告は、同社の顧問公認会計士と相談の上本件求償権の全部を放棄することとし、昭和六一年一二月三一日牧電機に対し、これに係る債務を免除する旨の意思表示をした(以下、これによる本件求償権の放棄を「本件放棄」という。)。なお、昭和六一年九月一日以降の同社の損益状況等については別表三ないし五のとおりである。
3 以上のような事情からすると、本件放棄は、所得税法六四条二項にいう「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部を行使することができないこととなったとき」に当たるから、本件放棄によって行使することができないこととなった金額三億九二五〇万円は、同項、同条一項により本件所得税に係る分離長期譲渡所得の計算上なかったものとみなすべきである。
六 再抗弁に対する認否及び反論
1(一) 再抗弁1(一)の事実中、牧電機が興産信金から昭和六一年二月八日二億三五〇〇万円を借り受けたことは認め、その余は知らない。
(二) 同(二)の事実は知らない。
(三) 同(三)の事実中、原告主張のとおり本件譲渡がされたことは認め、その余は知らない。
2 同2の事実中、原告がその主張の意思表示をしたこと、昭和六一年九月一日以降の牧電機の損益状況等が別表三ないし五のとおりであることは認め、その余は知らない。
3 同3は争う。
4(一) 所得税法六四条二項にいう「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、求償権の行使が不能となった場合、すなわち、主債務者について破産宣告、和議開始決定がされたために法律上求償権を行使することができなくなった場合や、失踪、事業閉鎖等の事態が起こったため、又は債務超過の状態が相当期間継続して金融機関、大口債権者の協力が得られないために衰微した事業の再建の見通しがないため、その他これに準ずる事情があるため、求償権を行使しても事実上その目的が達せられないことが確実となった場合をいうものと解され、これに当たるかどうかは、当事者の主観的認識ではなく、主債務者の資産状況、経営状態、支払能力、他の債権者に対する弁済状況等の諸般の事情を客観的に考察して総合的見地から判断すべきものと解される。
(二) しかして、原告の主張によれば、原告は、その保証債務の履行によって発生した求償権(本件求償権)を放棄したためこれを行使することができないこととなったというのであるが、仮にそうであるとすれば、そのように求償権が放棄されたり、これに係る債務が免除されたりした場合において求償権の行使が不能となったとするためには、主債務者の資産状況、経営状態等の事情を総合的にみて求償権を行使し得ないことが確実であることを前提として、右の放棄又は免除がされたことを要するものと解され、主債務者が事業を継続している場合においては、求償権を行使し得ないことが確実であることを前提として、右の放棄又は免除がされたかどうかは、その放棄又は免除がされた時点の主債務者の状況のみによるのでなく、ある程度の幅をもって主債務者の事業を継続観察した上で判断すべきである。
(三)(1) 牧電機の昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三〇日まで、同年五月一日から昭和六一年四月三〇日まで(同社は、同事業年度において決算期を八月から四月に変更した。)、同年五月一日から昭和六二年四月三〇日まで、同年五月一日から昭和六三年四月三〇日まで及び同年五月一日から平成元年四月三〇日までの各事業年度(以下、右各事業年度をそれぞれその終期によって「六〇年八月期」のようにいい、これらを総称して「本件各事業年度」という。)における損益状況は、別表三「牧電機商会の各決算期の損益状況」記載のとおりであり、同社は、六二年四月期には二億三九〇〇万円余の、六三年四月期には一億一六〇〇万円余の各当期純利益を計上している。特に、右六三年四月期の純利益には、本件放棄によって同社の債務が消滅したことによる利益等は含まれておらず、その大部分は事業活動によって得られたものと考えられる。そして、同社の損益は、以後も黒字の状態で推移していた。
(2) 牧電機の本件各事業年度における売上高は、別表三の売上高欄記載のとおりであり、これに、同社が右(1)のとおり六一年四月期において決算期を変更したこと及び別表四「牧電機商会の各決算期の未成工事受入金の残高の推移」記載の同社の六二年四月期における未成工事受入金を併せて考慮すると、本件各事業年度を通じて同社の事業活動が活発に行われていたことは明らかである。
(3) 原告は、本件譲渡以前に、本件資産を新都心住宅株式会社(以下「新都心住宅」という。)に一旦売り渡した後、この売買契約を解約したところ、牧電機が再抗弁1(一)のとおり興産信金から借り受けた金員のうち二億二〇〇〇万円は、原告が自ら興産信金から借り受けた金員のうちの六〇〇〇万円と併せて、新都心住宅に対する右解約に基づく売買代金返還金及び違約金の支払いに充てられた。したがって、牧電機は、原告に対し、右の二億二〇〇〇万円に相当する額の債権を有することとなる(ただし、新都心住宅に対し右支払いのされた六一年四月期の決算上右債権に見合う資産は計上されていない。)。
このような牧電機の資産負債の状況に照らすと、同社の債務超過の状況が相当期間継続していたということすら直ちに認め難い。
(4) 牧電機の本件各事業年度における借入金残高及びその内訳は、別表五「牧電機商会の各決算期の借入金の残高の推移」記載のとおりである。
ア 同社は、原告の主張に係る本件放棄から四か月後、原告から二億五八九七万八二〇四円を借り入れ、六三年四月期及び元年四月期においてその一部を弁済した。してみると、原告は、右の貸付けに際しこれを回収することを前提としていたというべきであるから、その僅か四か月前にしたとする本件放棄の際に、同社に対する求償権行使の不能であることが確実であると判断し、これを前提としたとは到底考えられない。
イ また、牧電機は、六一年四月期から六三年四月期までの各事業年度において、原告を除くその余の債権者に対し借入金の一部を弁済している。更に、同社は六二年四月期及び六三年四月期において金融機関から新たな借入れをしている。これらに右アの事実を併せて考えると、原告が本件放棄をしたとする昭和六一年一二月三一日前後において同社には十分な支払能力があったというべきである。
(四) このように、原告が本件放棄をしたとする同日前後の同社の損益の状況、売上高、債権者に対する弁済の状況及び金融機関との取引の状況を総合的に検討すると、同社は、その当時倒産に至ることなく活発な事業活動を行っていたものというべく、仮に同社が債務超過の状態にあったとしても、未だ本件求償権を行使してもその目的を達しないことが確実であったということはできないから、原告は、本件求償権を行使し、その満足を得ることが可能であるにもかかわらずこれを任意に放棄したものというべきであり、本件放棄は、所得税法六四条二項にいう「求償権の全部又は一部を行使するとおができないこととなったとき」に当たらない。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件更正の適否について
1 抗弁1(本件更正の適法性)(一)(1)(総所得金額)の事実及び同(2)(分離長期譲渡所得)のうち譲渡収入金額及び分離長期譲渡所得金額を除くその余の事実並びに再抗弁1(一)の事実中牧電機が興産信金から昭和六一年二月八日二億三五〇〇万円を借り受けたこと及び原告が牧電機に対し同年一二月三一日本件放棄の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。
2 弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認め得る甲第三号証及び弁論の全趣旨によれば、牧電機は、興産信金から右1の争いのない借入金を含む元金三億九二五〇万円の借入れをしており、原告は、右債務について連帯保証をしていたことから昭和六〇年五月二〇日興産信金に対し右元金全額を代位弁済し、もって同額の本件求償権を牧電機に対し取得したことを認めることができる。
原告は、これについて、本件求償権の全部を放棄し、これを行使することができないこととなったから、所得税法六四条二項、一項により、本件所得税の分離長期譲渡所得の計算上、そのうち本件求償権の額に対応する部分の金額はなかったものとみなすべきである旨主張する。
そこで、本件求償権はその全部を行使することができないこととなったかどうか(再抗弁2及び3)につき検討する。
3 ところで、同条二項にいう「求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったとき」とは、同項の分離及び趣旨にかんがみると、主債務者につき、所在不明、破産又は和議の手続き開始、事業の閉鎖、債務超過の状態が相当長期間継続して事業が衰微し、債権の見通しが立たないこと、その他これらに準ずる事情が生じたことにより、求償権を行使しても目的を達する見込みのないことが確実となった場合をいうものと解され、求償権が放棄され、又はこれに係る債務が免除された場合において右の場合に当たるとするためには、右のように求償権を行使しても目的を達する見込みのないことが確実となり、これを前提として右求償権放棄又は債務免除されたことが必要であると解される。
4 しかして、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証の一ないし五、乙第一、第二号証の各一、二、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立を認め得る甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 神田税務署長は、牧電機の、昭和五六年九月一日から昭和五七年八月三一日まで、同年九月一日から昭和五八年八月三一日まで及び同年九月一日から五九年八月三一日までの各事業年度(以下、右各事業年度をそれぞれの終期によって「五七年八月期」のようにいう。)並びに六〇年八月期及び六一年四月期の各法人税について、各欠損金額を別表六記載のとおりとする更正をした。
(二) 牧電機は、昭和六〇年三月から昭和六一年三月までの各月において、支払資金が不足し、借入金等によってこれを賄う状態にあった。
以上の各事実が認められ、右認定事実によれば、同社は、五七年七月期から六一年四月期において、別表六記載のとおり欠損を生じており、資金繰りも悪化していたことが推認される。
5 他方、同社の昭和五九年九月一日以降の本件各事業年度における損益状況、未成工事受入金残高の推移並びに借入金の残高及び内訳の推移がそれぞれ別表三、四及び五記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右事実及び前掲乙第一、第二号証の各二、成立に争いのない乙第六、第七号証、乙第八号証の一ないし三、原本の存在及び成立に争いのない乙第三、第四号証に弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(一) 牧電機は、六二年四月期には二億三九八一万八八〇一円の、六三年四月期には一億一六〇七万二九三四円の、元年四月期には四二九万六三八八円の各当期純利益を上げており、殊に、右の六三年四月期の純利益はそのうち一億一五三二万一七二三円を営業利益が占めている。
(二) 牧電機は、右1の争いのない事実のとおり昭和六一年一月八日興産信金から二億三五〇〇万円を借り受けたところ、原告は、右金員のうち二億二〇〇〇万円を、自ら興産信金から借り受けた金員のうち六〇〇〇万円と併せて、新都心住宅に対する自己の債務の弁済に充てた。したがって、牧電機は、原告に対し、右の二億二〇〇〇万円に相当する額の債権を有することとなる。
(三) 牧電機は、別表五記載の借入金のうち、六一年四月期において、株式会社富士銀行に対し一六八万円を、株式会社第一勧業銀行に対し一四一万一七三八円を、城南信用金庫に対し一二五〇万円を、飛鳥建設株式会社に対し一一〇〇万円を、六二年四月期において、株式会社富士銀行に対し二五二万円を、株式会社第一勧業近郷に対し二二五万四三三七円を、城南信用金庫に対し三〇〇万円を、株式会社安田信託銀行に対し六一二万円を、六三年四月期において、株式会社富士銀行に対し四六〇万円を、株式会社第一勧業銀行に対し四九七万三〇三五円を、それぞれ弁済した。
(四) 牧電機は、六二年四月期において株式会社ときわ相互銀行から三〇〇万円を、六三年四月期において興産信金から六二七〇万円を、それぞれ新たに借り入れた。
以上の事実が認められ、右認定事実にれば、原告が本件放棄をした昭和六一年一二月三一日の前後において、同社は、事業閉鎖、倒産等に至ることなく事業を行って純利益を上げ、金融機関との間でも、融資を受け、又はその返済をするなど支障なく取引をしていたものと認められる。
6 そうであれば、右4の認定事実は、それが本件放棄のされた六二年四月期以前の事業年度における事実に過ぎないことにかんがみ、また、右5に認定したところに照らして、本件放棄によって本件求償権の全部を行使することができないこととなったとする原告の主張事実を推認するには到底足りないものといわざるを得ず、ほかに右事実を認めるに足りる証拠はない。
そのほか、本件求償権につきその「全部を行使することができないこととなったとき」に当たる事実の主張はない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の再抗弁は理由がないことに帰する。
したがって、本件更正は適法である。
三 本件決定の適否について
抗弁2(本件決定の適法性)のうち、別表二の順号<1>、<3>、<4>、<6>、<9>及び<11>は、当事者間に争いがなく、右二によれば同別表のその余の各順号が認められるから、本件更正により原告が新たに納付すべき税額は一億二六一二万円(現行通則法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)と計算される。したがって、旧通則法六五条一項により右新たに納付すべき税額に一〇〇分の五の割合を乗じた金額(六三〇万六〇〇〇円)に、現行通則法六五条二項により右に新たに納付すべき税額中期限内申告税額(一二八万二九〇〇円)を超える部分に相当する金額(現行通則法一一八条三項により一万円未満の端数金額を切り捨てた金額)に一〇〇分の五の割合を乗じた金額(六二四万二〇〇〇円)を加算した因果区一二五四万八〇〇〇円を賦課決定した本件決定は適法である。
四 結語
以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 長屋文裕 裁判官石原直樹は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 中込秀樹)
(別紙) 物件目録
一 東京都世田谷区上祖師谷一丁目四五九番八
宅地 六六一・七二平方メートル
一 同所所在
家屋番号 四五九番八の一
木造瓦葺平屋建居宅
床面積 九七・九〇平方メートル
一 同所所在
家屋番号 四五九番八の二
木造瓦葺二階建居宅
床面積 一階 三九・六六平方メートル
二階 三九・六六平方メートル
別表一
本件課税処分の経緯
<省略>
別表二
<省略>
別表三
牧電機商会の各決算期の損益状況
<省略>
別表四
牧電機商会の各決算期の未成工事受入金の残高の推移
<省略>
別表五
牧電機商会の各決算期の借入金の残高の推移
<省略>
別表六
<省略>